オバケの駐在所
その凄まじさは
腰を抜かすほどだったが、
ほどなくしてあくたの山が
みるみるうちに小さくなり、
ドブもハエも
どこかに消え失せた。

警官が何かを手の平に乗せて
微笑みながらそこに立ち、
「もう大丈夫だよ」
と、手を突きつけてくる。

それは体長30cmほどの
ネズミだった。

ドブネズミと言われる類の
下水とかに
よく生息しているやつだろう。

「まさか……これが?
あのオバケの正体」

「ああ、
きっと排水溝に
住みついてるうちに
人間の悪血を吸って
変化してしまったんだろう」

ネズミはまだ動いていて、
チューチューと鳴くと
警官の手から飛びおり
森のほうへ
走っていってしまった。

「獰猛な性格はもとより
繁殖率も高い。
……もしかすると都心には
あーいう人の欲望を
むしるようなオバケが
多くなってるかもしれないな」

俺はハッと我に返り、
道に落ちている
千切れた手を拾ってみる。

まじまじとそれを見ると
男みたいにゴツくて
細かいかじり跡がついていた。

「……捜そう。
生きているなら
まだそこらへんに
いるかもしれない」

肩をポンと叩いてくれる
警官の手が
いつか感じた
トーチの灯りのように
すごく暖かく感じた。
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