オバケの駐在所
「……警視庁に聞いてみたけど
日本橋の魚河岸跡で
不審死があったらしい。
全身ネズミに
かじられている跡があって
片手がない4、50代の
男だそうだ」

やはりといった感じで
警官は言う。

小百合は遠く
景色を眺めながら
話の1つ1つを
受け止めていた。

「マスター、
みゆきのこと
好きだったんだ……。
気づかなかったな。
私も死んじゃうのかな」

俺が返す言葉に詰まると
警官が見かねて
見解を述べてくれた。

「あなたは大丈夫だと思うよ。
そもそも自分で殺す度胸が
あるくらいなら
願い事をかけたり
しないだろうからさ。
きっと酒に混ぜたのは
睡眠薬とかだと思う」

それでもやはり
顔色が晴れなかったのは
盛られた薬の成分の
ことではなく、
マスターの死が
俺らにも間接的に
関わっていたことだろう。

みゆきのこともだ。

「せめて言葉がほしかった。
俺が死んだほうが
マシだったかもな」

「私だってあんたと
大切な友達を
天秤にかけたのよ」

「……違うよ。
そういうことじゃなくてさ。
俺はいつだって
自分を隠していたんだ。
誰にだって
俺の考えてることを
知ってもらおうとも
思わなかったし
わかる奴もいないって
思ってた。
だから他人を軽蔑して
それで自分が優越感に浸って、
そうやって自分の存在を
誇示することで
体裁を保ってきた。
でも……、
人に支えてもらうのが
嫌だと思っていても
本当は人一倍みんなに
必要とされたかったんだ。
なるべく他人に
情が移らないように
していたくせに、
けっして人から
離れようとしなかったのが
その証拠さ。
俺は薄っぺらで、
情けないけど
それが刃物みたいに
人を傷つけたんだ」

小百合は考えこむように
黙っている。
< 557 / 566 >

この作品をシェア

pagetop