オバケの駐在所
わかったことがあった。

みゆきが死んだのは
あてつけなんかじゃない。

ただ純粋に悲しくて
大切な人がいなくなることに
耐えられなかったんだ。

愛したものが
泡となって手から
零れ落ちるように消える。

そんな普通の感情が
今になってわかった……。
下手な生き方をしてきて
紆余曲折した結果、
普通の人なら持っている感情が
ずいぶん欠落してるみたいだ。

途方もないアホさ加減が
再び胸を苦しくする。

どーしようもない奴だ。

ようやく小百合が
口を開いてくれた。

「バカね……。
もちろん、あんたの事よ」

「……わかってる。」

草葉の陰でみんな
笑っていることだろう。

ようやく天を覆っていた
雲も散りだして、
日暮町の名に相応しい
斜めに傾いた太陽が
街をオレンジに色づけた。

「あなたー、
そろそろ時間だよ」

と、横から突拍子もなく
小学生くらいの女の子が
警官のスーツの尾っぽを
引っ張った。

銀色の髪に
退廃的な黒いドレスを
まとっている。

「あ〜、しまった!
もう行かなきゃ」

腕時計を見ながら
頭を掻く警官
……だけど、お、おまっ。
あなたってそれ。

……いや、まさかな。
この男に限って
それはないだろう。
きっと妹か何かさ。

どうやら男は知り合いの
結婚式に出席するらしく
これからすぐ
向かうのだそうだ。

そのついでに
小百合も病院まで
送り届けてくれるという。
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