オバケの駐在所

さて、かくして俺の
不思議な体験談は
幕を閉じた……と、
言いたいところだが、
むしろ本題はここからだ。

帰り道。

なんとなく思いたって
俺はみゆきがいた街を歩いた。

白い雪はやはり
季節にそぐわないのか、
誰かが道路脇にかいた
雪だまりは
もうすでに融解の一途を
たどっている。

スーパーからの買い物客も
咲いた花を埋める雪に
なんの違和感も
感じないらしく、
その雪解け水を
うっとおしそうに
避けるくらいだ。

エルニーニョだか
ラニーニャだか
騒がれていたからかな。

だけどこれを
単なる異常気象だと
思ってない奴がいる。

もちろんそれは
排水溝に願いをかけた俺だ。

そんな俺は格別
好きってなわけではないが、
缶コーヒーを片手に持って
歩いていた。

それは何故かというと――。

「あっ」

――カランカラン――。

「――ごめんなさい。
よそ見をしちゃってて」

女の人の声。

「大丈夫です。
俺もちょっと考え事を
してたものですから」

勢いよく住宅地の曲がり角から
やってきた女の人と
ぶつかり、
その拍子で
ちょうど固い歩道のところに
缶コーヒーを落とした。
飲みさしじゃなかったが、
あと数cm横だったら
雪だったのに……。

……まあ俺が
飲むわけじゃないから
いいんだけど。

なにやら先を急いでいた
女の人の後ろ姿に視線を送る。
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