オバケの駐在所
伏せた私の顔の横に
おばあさんは
静かに鎌を落とし
逃げられない事を
悟らせながら
背後から厳然として
聞いてくる。

「あんたの服
塩で清められてるわね。
花びらで目印を
つけておいたのに……。
道理で居場所が
わからないわけだ。

あんたが気づいたの?」

私は話すのが
嫌になるほどだった。

断りもなく
人気のない
土地に飛ばされて
膝を擦りむいて
臓腑をかぶって
刃物を突き立てられる。
瞳孔は光の筋が入るほど
キンキンに
開きっぱなしだった。

……ハジメさんは
気付いてたんだ。
だから塩漬けの葉っぱで
擦ったり
魔除けのリングを
渡してきたのか。

「喋りたくもないのかい?

私はいわば桜の化身。
あの子を
咲かせてあげたいの。
許してちょーだいね。」

そう言って鎌は
顔の横から離れていく。

……本気?

私は目の前にある
灰色の心臓をつかみ
がむしゃらに投げて
抵抗するが
胸ぐらを掴まれ
おばあさんはお構いなしに
鎌を振り上げる。

……ねぇ、
私だって咲きたいんだよ。
これから立派な大人に
なるために頑張るの。

なのに……、
こんなのってないよ……!

街灯に照らされる
桜を背景に
逆光で影になっていたが
振り下ろされるであろう
その瞬間
私は思いきり瞳を閉じた。
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