夕暮れ色の君
Prologue
―――あの時の出来事が、蘇る。
車のノイズ。
鳴り響くパトカーのサイレン。
地面に飛び散っている無惨な血の跡。
うずくまり、泣き叫ぶ人々。
“あの人”の冷たくなった体。
二人、交わした「約束」―…。
あたしは何も言えなかった。
あたしは何もできなかった。
“あの人”は一人で苦しみを抱えていたのに。
“あの人”は一人で堕ちていったのに。
そんなあたしの報いだから。
あたしはこの先、“あの人”以外を愛さない。
他の人なんか、いらない。
“あの人”しか、いらない。
あたしの中には、“あの人”だけいればいい。
それがあの日の夜、決めたこと。
この決心は、一生揺るがないはず、だった。
―そう、“あの人”によく似た、不思議な青年に出逢うまでは。