夕暮れ色の君
『あら、栞(しおり)。もう、出かけるの?』
「うん」
『そうなの。出かけるときには、「いってきます」くらいは言ってね。
何も言わずに行っちゃうと、お母さんびっくりしちゃうから』
「…うん」
親にまで愛想が悪い私は、本当に親不孝ものだと思う。
中学のときは「いってきます」を叫ぶように言ってたあたしなのに、
今ではその挨拶を何度も忘れるほど。
その変わりようを知っていながらも、あえて何も言わないお母さんは優しい。
「いってきます」
そんな優しいお母さんに、一つのお礼もできないあたしは、なんてダメな子供なのだろう。
こうして、あたしの枯れきった一日が始まる。