夕暮れ色の君
蒼さんはあたしを立たせたものの、それからずっと笑ってるだけで、行動する様子は見られない。
不可解に思ったあたしは、意を決して声を掛けてみる。
「蒼さん…、」
『んー?』
「何か、あたしに用事ですか…?」
そのあたしの言葉に、蒼さんはああ、と思い出したように手を叩く。
…ってことは、今まで忘れてたのか。
蒼さんって絶対に天然だ。
『もーいっかい、自己紹介、しようと思ってて』
「自己、紹介…」
『最初の出会いは、僕だけの一方的だったでしょ?
だから、仕切り直し』
じゃあ僕からねー、なんてあたしの言葉を全く聞かずに話そうとする蒼さんは、
最初の時よりも、一方的だと口を尖らせたくなったけれど。
心底嬉しそうに笑う蒼さんが、素敵だったから。
…ま、いっか、なんて思ったのは、蒼さんには内緒だ。