夕暮れ色の君


『…だめ、呼ぶ』


「!」


『僕が〝しーちゃん〟って呼びたいの』



そこに見えたのはふわ、っとした笑顔。



「っっ」



これじゃあ、反論できなくなってしまう。

無言の肯定、だ。



『あ、しーちゃん』


「…な、何ですか」



どうしたら、そんなすぐにすっと呼べるのだろう。


あたしだけ反応して、馬鹿みたい。



『しーちゃんって、どの辺住んでるの?帰ろうにも、どの方向か分からなくて』


…慣れない。


蒼さんはもう、すらすら呼んでくれているけれど。



調子狂うから、正直、しーちゃんって呼ばないで欲しい。



はぁ、と小さく溜め息をついてから答える。


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