本当の恋に 気づいた日
斉藤佳奈の手を掴んでない方のもう一方の手で、カバンをまさぐり、財布から1000円札を抜き取る。
確か丁度1000円だったはず。
テーブルの上の伝票の代金を確認し、その伝票とともにレジにいる店員に1000円札を渡す。
そして呆然と立ち尽くしている斉藤美歩を置いて、俺たちは店を出た。
「…どうしたの?」
「…え、いや……その、斉藤美歩が鬱陶しかったから…」
「…え?…っていうか、手、痛い。離して?」
「あ…悪い」
そう言えばずっと手を繋いでいたんだ。
改めてその事実に気づき、心臓が跳ねる。
細くて白い指……。
力を加えたら折れてしまいそうだった。
「別に…いいけど。じゃぁ、家帰ったら絶対メールしてよ!」
「……おぅ、分かった」
…今更だから言うが、携帯電話を忘れたというのは、真っ赤な嘘。
この前メアドを交換したのにも関わらず、俺たちはまだメールできていない。
だから、この際メールしたいな、と思っただけだ。
でも、それが兄貴の事って言うのがなぁ……。
「じゃぁ、またね!…今日はいろいろとごめんね!」
「…あぁ、また明日」