本当の恋に 気づいた日
「兄貴には、好きなヤツがいる」
「……」
いる…んだ。
好きな人、いるんだ…。
「いた」とかじゃなくて現在進行形で「いる」んだ…。
衝撃、という2文字にふさわしいと思える感情が胸を支配した。
そしてその意味を再度理解し直しているうちにじわり、と目に熱いモノが浮かんできた。
曇る視界、落ちる涙。
あぁ、佐藤の前で泣くの、2回目だな……。
1回目は嬉し泣きだったのになぁ…。
…ふと、佐藤があたしの横に腰掛けた気配がした。
そして背中をなでてくれた。
とても優しい手つきで、ゆっくりと。
どうしてか、それはあたしにとても安心感を与えてくれた。
「話、続けてもいいか?」
声を出す事ができなかったので、ゆっくり首を縦に振った。
「戸籍上は、兄貴が『佐藤華音』になるんだけど、学校での関係とかいろいろあって、兄貴は今旧姓を名乗ってる。でも…あの日、屋上で兄貴が屋上で『榊華音』じゃなくて『佐藤華音』になりたい、と俺に言った。何故か分かるか?」
…分からない。今は正常に物事を考えられない。
あたしは首を横に振った。
「俺もあの時、兄貴が真剣な顔して俺を屋上に呼び出してそう言って来たから『何で?』って聞こうとしたんだけど、そうしたら斉藤と近藤が来たんだ。……で、昨日、気になって聞いたんだけどな……」