かたつむりの恋心
本を借りている生徒の図書カードと、借りていない生徒の図書カードは、置き場所が違う。

クラス別に分類されているのだが、3-Cの中で一枚だけ、貸し出し中でないカードがあったので、目立っていたのだ。

あまりじろじろ見るわけにはいかないが、「上村」という名字だけは見てとれた。

「なに?」

視線を感じたのか、図書委員が煩わしそうに顔を上げる。

「あ、すみません。あの……」

「なに? 図書カード一枚だけここにあるのが不自然?」

すごくぶっきらぼうだが、的確に突いてくる。


思いきって聞いてみた。

「その人、本、借りないんですか?」

「上村ヨシキ。会ったことないだろ。」

「あの……」

「登校拒否だから。」

(じゃあ、あのノートはもしかして……)

ナツメの頭の中でパズルがかちっと組み合わさった。

図書委員はそんなナツメをじっと見ていたが、ふいに口を開いた。

「帰れば?」

「あ、はい……」

そうしてその日は、すごすごと退散した。
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