赤い愉楽
男はその言葉を聞いて
目を伏せる。


しばらくの沈黙の後
男は静かな口調でこう言った。


「私はあの店でご主人と待ち合わせを
していたんですよ」

下を向いて悲しい顔をする男。


「私がもしあんな所で待ち合わせをしなければ
事件には巻き込まれなったかもしれない。


申し訳ないことをしたと思っています…」


怜奈はもう一度男の顔を凝視した。


夫の交友関係は把握してたつもりだが
男の顔に見覚えはなかった。

少し首をかしげる怜奈。


「ご主人とは海外の赴任先で知り合いましてね。


私が先月日本に帰ってきてから
何度かあの店でご主人と酒を酌み交わしていました」
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