茜ヶ久保マリネの若気の至り
「言うな」

視線を下げ、私は声を荒げた。

そんな事、何度考えたか知れない。

女の身、人魚の身で、魔物の雄たる海竜王に立ち向かうなどと。

だが、やらねばならぬのだ。

「いいか」

私は侍女を見つめる。

「今のこの状況は絶対恭順ではない。リヴァイアサンに従うと言い繕っているだけの泣き寝入りだ。踏みにじられ、唾棄されても黙って耐えているだけの服従だ」

「……」

私の言葉に、侍女は何ら言い返せない。

言い返せないに決まっている。

私の言葉は正論なのだから。

「力なき者にまで剣を執れとは言わないわ」

私は彼女に背を向けて歩き出した。

「私がリヴァイアサンに刃向かう事で、お前達に迷惑をかけるというのならば、次から奴にはこう言いなさい」

振り向く事なく、私はその言葉を侍女への最後とした。

「『茜ヶ久保マリネは、既に女王でも我が一族の人魚でも非ず』とね」

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