茜ヶ久保マリネの若気の至り
クラーケン。

その名前だけは聞いた事がある。

海魔人とも称される巨大な魔物。

リヴァイアサンに比肩しうるほどの大怪物ではあるが、かたや神に近い存在として語られるリヴァイアサンに対し、クラーケンは破滅の象徴、その性は悪としての認識の方が強い。

光溢れる大海原からは身を隠し、常に闇に包まれた深海の世界で、このクラーケンは虎視眈々と覇権を掴む機会を狙っていたのだろう。

しかし。

「何だマリネ。まさか惚ける気ではあるまい?」

乳房に歯を食い込ませたまま、クラーケンは上目遣いに私の苦悶の表情を楽しんでいた。

…確かにこの男の言う通り、古来より人魚の血肉は、不老不死の妙薬になるという言い伝えがある。

天空宮もご多分に漏れず、その人魚伝説があった。

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