記憶 ―惑星の黙示録―
「……お、奈央ってば…」
ふと…
瞳を上げると、
困った様な愛里の顔。
そこは、白いテーブルが橙色に染まる夕暮れのテラス。
夏とはいえ風が冷たくて、私の体が鳥肌を立てていた。
「…ぁ…」
「もぅ、奈央ったら。話の途中で寝ないでよ…」
呆れながら私に微笑み掛ける愛里の胸には、小さな黒い猫。
にゃぁ…
そう小さく鳴く猫に、
なぜか首を横に傾げる私。
「…ぁ、ごめ…、寝てた?」
私はそう掠れ気味の声を出して、とろんとする瞳を擦る。
「ううん?一瞬だけ…。私もごめんね。金曜の仕事の後に会おう、なんて…奈央、疲れてるのにね?」
「…ううん、平気。」
ビルの谷間。
帰路につく人々の群れ。
生きる意味を忘れてしまった人々の群れ…
そう見えてしまうのは、
私の心がきっと荒んで疲れているから。
私もその中の一人、
そのはずだったのに…。
……?
さっきまでは疲れ果てて、
心は苦しいばかりだったのに…。
何…
この違和感…
心は、癒されていた。
すっ…と、
楽になっている気がした。
「…大丈夫?奈央…」
きっと…
そう顔を覗き込む愛里の笑顔に、私は癒されたんだよ。