記憶 ―惑星の黙示録―
飲み終えたアイスコーヒーのグラスの中で、溶けかけた氷がカランと音をたてた。
「…ははっ!ごめん、何でもない。私、疲れてんのかな…」
首を傾げる愛里に私はそう笑うと、猫を預けようと立ち上がる。
気のせい…。
この出来事を何回か繰り返している…
そんな気がした、だけ。
「…タビ、おいで?」
愛里がそう優しく呼んでも、猫はキャリーケースに入るのを嫌がってか、なかなか私から離れない。
「…どうしたの?いつもは良い子なのに…!」
そう愛里が溜め息をつきながら私に近付こうとした時、
――…ぽつ。
そんな微かな音が耳について。
橙色に染まる白いテーブルに、水滴が落ちていた。
「「……ぇ?」」
ぽつ、ぽつぽつ…
空から、
いくつもの粒が落ちる。
「…やだ、雨?」
「…晴れてるのに!?」
屋根の無いテラス。
私たちは自分の荷物を手に取ると、慌てて店内に続く屋根のある場所へと駆け出した。
私は片手で黒猫を。
もう片方には重い仕事カバンを肩に背負って…。
――ドサッ…
屋根のある店先へ逃げ込むと、空を見上げながらカバンを地面に置いた私。