記憶 ―惑星の黙示録―
「…奈央。仕事の荷物、前より増えてない?整理してる?いらない物まで入ってそう…」
私の下ろしたカバンを覗き込みながら、愛里も持っていたキャリーケースを屈んで下ろす。
「うん、してない。無駄に色々入りすぎてて重い!」
このカバンの中身は、
現実と『戦う道具』…。
「…もぉ。気張ってそんなの背負ってるから余計に疲れるんだよ。荷物減らせば気持ちも軽くなるって…」
「そうかも…」
はは…っと私は笑いながら、
本当にそうかもしれない、
今日家に帰ったら整理してみよう…と、そう思っていた。
「…や~、皆も続々と避難してくるね…」
降り出した、
夕暮れ時の悪戯な雨。
広いテラスでは、他の客たちも続々と私たちと同じ行動をとり始めていた。
空は橙色のままで…、
肌寒かった風は、
優しく温かい特有な物に変わっていた。
その風が、
どこからか運んで来るのは…
――…花の匂い?
金木犀…?
近くにあるの?
ふわっと香るどこか懐かしい甘い匂いに、私は周囲を見回していた。
――…ちりんっ…
そんな音が聞こえた。
動きを止める私に、「どうしたの」と問う愛里。