記憶 ―惑星の黙示録―
「…綺麗な雨だなぁ?」
隣に立っていた男性客が、ぽつりと話し出して…
ビクッと肩を震わせる私。
…ヤバイ、
今の独り言聞かれてた?
そう顔色を伺ったのだけど、その人は予想に反して笑顔で居たから…
私も、この光景を眺めて言葉を返す。
「綺麗ですけど、困っちゃいますよねー?急に降られちゃって…」
ふふふ、と男性は笑う。
「…お嬢さん、こんな話を知ってるかい?突然に降り出した悪戯なお天気雨はなぁ、誰かの『涙』なんだよ…?」
「…涙…?」
見ず知らずの人の言葉。
だけど…、
不思議と素直に聞けた。
「泣きたくても泣けなくて、我慢して表には出なかった…溜め込んでしまった『心の涙』さ。」
「へぇ…」
「たまに神様が…皆の心の涙を、外へと優しく汲み出すのさ…」
そう男性は優しく笑った。
じゃあ、これは…
この雨は、
私の涙かもしれない…
風が通る度に、
ほのかに香る花の匂い。
橙色の夕暮れに、
きらきらと優しく降り注ぐ雨。
灰色の世界が…、
綺麗に輝いて見えた。
「素敵な話…」
気が付けば、
横で愛里がそう呟いていた。