サナギとセカイ
「マジであのヒゲ捕まんねーかな」


ぶちぶち愚痴を垂れながら、棚から材料のドーナツの粉やら卵やらその他やらを取り出していく。

で、取ってはキッチンの上に放り投げる。

取っては投げる。


「さて、仕事始めるか」


もう三年近くやってるから、手慣れたもんだ。

余計な事を考えてても、体は勝手にドーナツの生地を作る。

ボールに材料ぶちまけて、混ぜる。

混ぜる。

混ぜる。

とりあえず混ぜる。


「ふぅ……たりぃ」


途中で、また愚痴を零す。

混ぜる。

混ぜる。

混ぜる。


で、出来た生地を機械に押し込めて、油の中へぽちゃぽちゃと投下。

これで完成。

ラクショーラクショー。


「おはようございます、佐凪さん」

「おー、イッキ」


入ってきたのは、かわいい後輩君。

いつもニコニコ、人懐っこい顔で接客している男の子。

身長は私より頭一つ高く、オッサンより頭一つ小さい。

髪は黒のままで、ちょっと長めに伸ばしてるのに目を瞑れば、優等生然としている。

私の知り合いの中じゃ、一番マトモだな。

タカナシみてーにチャラチャラしてねーし、オッサンみたいに破綻した性格もしていない。


確か、今年からタカナシと同じ大学に通っているはず。

どうか、あの阿呆の影響を受けませんように。


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