サナギとセカイ
「ちゅーか凪さん、いつまで続けるンすかー?」

「ンの事だよ」

「バイトのコトっすよ」


こいつの言うバイトというのは、ミセス・ドーナッツの事だ。

通称、ミセド。

代金分の甘ったるいドーナツとバイト代分の笑顔を売る、それはもう夢の溢れるアルバイトだ。


「…ンなこた、おめーにゃカンケーねぇ」


フィルターだけになった煙草を灰皿で押し潰し、私はソファーの背に腕を広げて、深く身を静めた。

「ま、無いっちゃ無いンすけど…」


タカナシは、歯切れ悪く言葉を切った。

店内に流れる流行りのクリスマスソングが、微妙な沈黙をフォローしていた。

私は知らず知らずその歌を口ずさみ、次の煙草に火を付ける。


「俺三年なんで、そろそろ就活なンすわ」

「へー、お前三年だったんだ」

「けど、夢っちゅーか希望みてェなモンとか全然なくて、就活どーすっかなーみてーな感じなンすよ」

「ふーん、んなカンジなんだ」


煙草をくわえたままソファーの背もたれに頭を預ける形で天井を見上げる私は、適当に相槌を打っていた。

打ちながら、なるほどと思ったりしてた。


久しぶりに私ンとこ来たのは、人生相談が目的だったらしい。

アホだ。

もっと他の奴頼れよ。


「ンでー凪さん、まー言ってみりゃフリーターじゃねーっすかー」

「あー…ま、無職だわな……あ?てめ、ざけんなハゲ。誰が、無職だコラ。私は絶賛ドーナツ職人だっつの。ドーナツっていうメルヘン売ってんだよ。お客様にひとときの夢を売ってんだっつーの。お分かり、チンピラ?」

「でもバイトじゃねーっすか」

「……ぐ」


こいつ、人の痛い所を。


< 6 / 29 >

この作品をシェア

pagetop