せんぱい
女子高生
携帯をいじる右手に落ちた、小さな桜の花びら。
上を見上げると満開の桜。
「桜きれいだね〜」
通りすぎる人達は、みんなそう呟く。
春は好きだけど嫌い。
だって、出会いもあれば別れもあるし。
桜はきれいだけど、花が散った桜の木は、見たらなんか淋しいでしょ?
いいことがあれば、同じ分だけ悲しいことが起こりそうで。
だから、気付いたら春は好きだけど嫌いになってたんだ。
「奈都、ヤバいんだけど」
携帯の時刻は8時半になろうとしていた。
「もう8時半なりそー」
目の前で自転車をこぐ、奈都の制服の裾を引っ張った。
「え、まじで?
ちょい飛ばすから彩乃つかまっててっ!」
奈都はそう言うと、立ちこぎでスピードをあげた。
あたしはまだ新しい奈都のブレザーに、しっかりつかまった。
あたしを後ろに乗せた自転車は、桜の木の下を猛スピードで走っていく。
あたしと奈都は中学からの仲。
あかるく染めた髪に、着くずした制服と化粧で周りから浮いてるけど、そんなん気にしない。
喧嘩は多いけど、奈都といると素でいれて楽だし、一緒にいて落ち着くんだ。
そしてこの春、頭の悪いあたし達も無事、バカ高に入学することができた。