せんぱい
「ギリセーフ!」
「奈都のガチこぎ早すぎ〜。
あたし途中で落ちそうになったくらいだからね」
ごめーん、と笑う奈都。
なんとか間に合ったあたし達は、生徒玄関で靴を履き替えていた。
「なにがギリセーフだ!
お前らは遅刻だ、美咲、森本!」
男の声に振りかえると、そこには学年主任の前原がいた。
「うわ出た」
長身でそれなりに筋肉がありそうな、体格のいい先生。
黙ってればまだマシなのに、しゃべりだすと説教ばかり。
入学してまだ1週間しか経ってないのに、あたし達の名前は覚えられていた。
「お前ら、いつになったら髪染めるんだ?」
また髪か。
これで何回目か知らないけど、うちらは黒に染める気なんてない。
「だからー、これ地毛だし染める気なーい」
「お前なあ、これを地毛だと認める奴がいると思うか?」
呆れた顔の前原。
あーめんどくせぇ。
そう思ったのは、あたしだけではなかったみたい。
「つーか、あたし達急いでっから!」
奈都はそう吐き捨てて、あたしの手をとって走った。
さすが奈都。
奈都がキレるのは、いつも時間の問題。
だって短気なんだもん。
後ろから怒鳴る前原を置いて、階段を走ってのぼった。