Alice Doll


「でも絶対見たんだから!」

「はいはい」

「……もう! 後からごめんって謝っても許さないからね」

「りょーかいですよー」

 プリプリと怒る優芽。そんな彼女に由衣と莉緒はやれやれと肩をすくめ視線を交わす。

 二人もその噂が気にならない訳ではない。ただ、聞き飽きてしまったのだ。

 しかして、その原因は優芽にある。彼女は会話や噂のネタに尽きると、必ずと言って良いほど何時も何時もこの話をしていたのだ。

 そのお陰で感覚が麻痺しているのだろう。本人がその目で見たと言っても、今一現実味がないというか、四次元の話をされているような気分になるのだ。


 しかしここでめげないのが優芽の良い点であり、悪い点でもあった。
 案の定、彼女は今のことなど忘れたかのように、ケロッとし、じゃあまた進展があったら教えるから楽しみにしててね、などと笑顔で言っている。


 それもまた、はいはい、と流すという会話の流れが、彼女らの中で定番化していっていた。
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