Alice Doll


「にゃおん」

 ふっ気付くと由衣は見知らぬ場所に立っていた。そして同時に彼女は戸惑っていた。

 目の前には彼女の追い求めた黒い毛並みの綺麗な(でも性格は悪そうな……いや、悪い)猫。
 しかし、その前には小さいが可愛らしく装飾された濃い緑色の門扉が、彼女と猫を隔てている。

 辺りは既に真っ暗で、切れかけの街頭が淡く照らしてくれているが、それがかなり怖い。
 人の家に入る申し訳なさもあるが、それ以上にその恐怖が勝り、なかなか由衣は動けなかった。


 目の前に鍵があるのに!
 あれさえ取り返せば、すぐにでも人に道聞いて帰るのに!


「にゃおん」


 再び猫が鳴いた。

 まるで早く来い、とでも言うかのように。
< 16 / 80 >

この作品をシェア

pagetop