Alice Doll
「にゃおん」
ふっ気付くと由衣は見知らぬ場所に立っていた。そして同時に彼女は戸惑っていた。
目の前には彼女の追い求めた黒い毛並みの綺麗な(でも性格は悪そうな……いや、悪い)猫。
しかし、その前には小さいが可愛らしく装飾された濃い緑色の門扉が、彼女と猫を隔てている。
辺りは既に真っ暗で、切れかけの街頭が淡く照らしてくれているが、それがかなり怖い。
人の家に入る申し訳なさもあるが、それ以上にその恐怖が勝り、なかなか由衣は動けなかった。
目の前に鍵があるのに!
あれさえ取り返せば、すぐにでも人に道聞いて帰るのに!
「にゃおん」
再び猫が鳴いた。
まるで早く来い、とでも言うかのように。