Alice Doll
「分かったわよ! い、行けばいいんでしょ、行けば! 今すぐそっち行くんだから待ってなさいよ! そ、その代わり、絶対その鍵返してよね!」
由衣は猫に向かって声を荒げた。その様子は、端から見れば完全に不審者だ。
「にゃーん」
再び猫が鳴く。
果たしてそれは了解と取って良いのだろうか?
言い知れぬ不安が頭を過(よ)ぎる。この門を通り、鍵を取りに行って終わるならそれで良い。
しかし、どうもそれだけじゃ済まない気がするのは自分の気のせいだろうか。
そうは言っても鍵を手に入れないことにはどうにもならない。由衣は意を決して門扉を持つ手に力を入れた。
ギギ、と軋む音を響かせ、門扉は開いてしまった。実は少しだけ、鍵がかかっていることを期待していた。
辺りに人がいないことがこんなにも心細いなんて!
由衣は目が熱くなり、鼻につん、とする感覚を味わった。慌てて誤魔化すように目を瞑り、ゆっくり息を吐いた。
泣き出したいのは山々だが、こんな所では絶対にごめんだ。
目を開けると、やはりそこには口に鍵をくわえたあの猫がいる。
「鬼ごっこはここまでって話よ……。大人しくお縄につきなさい!」
由衣は制服が汚れるのも構わず、ガバッと猫に飛びかかる。
正直に言って、その猫が鍵を返してくれるとは、どうしても思えなかったのだ。