Alice Doll
果たしてその通りだった。猫は「なぁ」と一鳴きすると、軽々由衣の渾身の体当たりを避けてしまった。
驚く様子も何もないところを見る限り、彼女の行動などとうに想定済みだったようだ。
そのまま転がった由衣の頭に乗ると、尻尾をペシペシ叩き付けて飛び降りた。由衣の捕まえようとする手も軽々通り抜けてしまう。
そしてそのまま、何事もなかったかのように鍵を口にくわえたまま、走り去り、今度こそ由衣の前からいなくなってしまった。
「最……悪……。有り得ないし……」
あまりのショックに呆然としながら、由衣は言葉を紡いだ。
これからどうしよう、ということ以上に、猫に負けた、という事実の方が歯痒く、屈辱的だった。
こんなことになるなら、最初から友だちの家にでも泊まりに行けば良かった。猫なんか追うんじゃなかった。
あの時、飛び込んだりしないで、もっと冷静になってれば良かった。
様々な後悔の念が由衣を襲う。
惨めだった。自分の考えのなさ、判断力のなさに腹が立って仕方なかった。