Alice Doll
母さんになんて言おう。こんな歳にもなって家の鍵をなくしただなんて……。
それに、そもそもまだ帰ってきてないかもしれない。携帯は家の中だし。
足も棒みたい。すっごい疲れてる、私……。
由衣は途方に暮れると同時に、訳が分からなくなってきた。
どうして、こんな目に遭ってるんだろう?
考えても考えても答えなんてものは出てこない。その代わりに、今まで耐えてきたはずの涙が諦めたかのように、つぅ、と頬を滑り落ちた。
一筋流れたらもう一筋。さらにもう一筋と、涙は止まるところを知らない。
どうせ周りに人はいないのだから、と思うと嗚咽まで込み上げてきた。
最低限、声を殺して泣き続け、一体どの位が経ったのだろう。少なくとも十五分ほどは経過したはずだ。
「どうかされましたか?」
座り、泣き崩れる由衣の背後で誰かがささやいた。
それは本当にいきなりだった。いくら彼女が泣いていたとは言え、人の気配まで分からなくなるとは思わなかった。
もし、その時の彼女の心境を「驚いた」のみでしか表現できないとしたら、百回言ったって及ばないだろう。