Alice Doll


 初めまして。

 男は由衣にそう言って手を差し伸べた。


 胸に届くか届かないかくらいに伸びた薄い金色の髪。前髪も切っていないのだろう、相当伸びている。

 しかし、そこに不潔な感じは一切なく、清潔感しかない。
 長い前髪の間から垣間見える長い睫毛にエメラルドグリーンのキラキラした瞳。通った鼻筋に、綺麗に弧を描く唇。

 細身で長身だが、筋肉はついているのだろう。決してひ弱そうには見えない身体。

 差し出された手は白く、指は長く爪は薄い桃色だ。

 白いワイシャツから覗く腕も、襟元から数個外したボタンにより見える鎖骨も、綺麗だった。何より、色気がある。

 男の人に色気、それをテレビもなにも通さず間近で見ている。由衣はバクバクと鳴る心臓は、しばらく平常には戻らないだろうと覚悟するのだった。



 それにしてもこの人。綺麗すぎる。下手したら女の私より……。
 うん。つまり、王子様だ……。この人、王子様なんですよね?


 由衣はぽう、と目の前にいる男を見つめた。無意識に握手をし返したが、そこに実感はなかった。

「改めまして。私はここの主人、奏(カナデ)と申す者です」

「は、初めまして! わ、私は宮根由衣です! ……ん? 奏?」
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