Alice Doll
奏は察したように、こくんと頷いた。よく言われるのだろう。それはそうだ。ここまで完璧な外国人顔で『奏』だ。
それは誰でも聞き返すに違いない。果たしてその通りだった。
「ああ、よく言われるんだ。うちの母も父も日本が大好きでね、この屋敷を建ててから、生まれた子には日本名を付けるって決めてたらしいんだ。
名前の候補見たら、徳治郎とか五右衛門とかになってかもしれなかった」
さすがにそれはキツいよね、と奏は苦笑する。
「だけど父も母も、ある時本で見た『奏』っていう漢字をたいそう気に入ってね。それを子どもに付けたんだって。
確かにこの身体に日本人の血は入ってないけど、生まれも育ちも正真正銘この国だよ」
続けてミルクティーに目を移す。栗色の髪の女性(そういえば名前を聞いていなかった)が用意したものだが、彼女は口をつけなかった。
ちょっとごめんね、喉がカラカラなんだ。そう言って目の前にあるコップの中身を一気に飲み干す。
「……さて、由衣さん。本題に入ろうか」
甘い声が脳を麻痺させるようだ。その言葉に操られるように由衣は自然と彼に口を開く。