Alice Doll


 なるほど、と奏は何度も頷いた。
 由衣はまるで魔法をかけられたかのように、スラスラと先ほどあった出来事を口にした。
 そんな夢のような話をすんなり信じるその様子から、何か彼には心当たりがあるようだ。

「そうか、それは本当に困っただろうね」

「は、はい……」

「その猫か鍵が見つかったらセリアに届けさせよう」

 そう言って奏は傍らに立つ栗色の髪の女性を指さした。どうやら名前はセリアというらしい。

「いえ! そんなのとんでもないです!」

 そう言いながら、こっちの人は外国人みたいな名前なんだなぁ、と心の隅で思う。

 そうかな? と笑う奏に、由衣は再び見とれながら、そんな笑顔は反則だ、と心の中だけで呟くのだった。


「そういえば、もうご両親はお帰りになられたのではないか? 夜も遅くなってきたし、この辺は物騒だから女性を一人では帰せない。良かったら送っていくよ?」

 有り難い申し出、かつ、こんな格好いい人に送ってもらえるなら、空も飛べる心地がするだろう。
 が、由衣は何も答えを返せなかった。


 ……ここはどこだ。

 もし遠かったりしたら住所など言っても分からないだろう。実際、近くたって、住所だけ言われても案内しきれない自信が由衣にはある。

「あの、送ってもらえるのは嬉しいんですけど……。ここはどこなんですか?」
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