Alice Doll
しばらく、由衣は口を開けたまま動けなかった。奏の言葉を理解したのに、それがしっかり頭の中に意味付くまで、時間がかかったのだ。
「うっそぉ……」
由衣の言葉に、奏はくすくすと声を殺しながら笑った。
いや、実際には由衣が目を見開き、口を開け、ぽかんとしているところから面白そうに肩を震わせていたのだが。
「由衣さんは知らなかったんだね、ここが噂の人形館ってこと。まあ、暗かったし、その上裏口から入ったなら仕方ないとは思うけど」
どうやら自分は、あれほど馬鹿らしいと言っていた噂の人物に直接対面しているらしい。
しかし……。
「……噂と全っ然、違うじゃん!」
噂の影すらない。館の主人、超絶美形じゃないですか!
そこまでは言わなかったものの、由衣はつい声に出してしまった。その反応も面白かったのか、奏はまた笑う。
「ああ、鬼とかお爺さんとか……ヒドいときには化け物とかいう噂も流れてたね」
ああ、まさか自分が張本人とご対面するなんて思わなかった。しかし、こうなると先ほどのデジャヴも納得がいく。
優芽は彼の隣に佇むセリアさんを見たんだ。
そして彼女を主人と誤解したんだ。
由衣は心の中でそっと「優芽、残念でした」と呟くのだった。