Alice Doll
人形館で夕食
「セリアさん」
後ろ姿に声をかけると、ふわりと振り返ってくれた。なんだかいい匂いがしそう、と由衣は思わず息を大きく吸い込んだ。
鼻に漂ってきたのは、甘く独特な紅茶の香り。
奏さんの隣にいると比べられないけど、やっぱり凄く綺麗な人だと、由衣はセリアを見て再認識する。
「どうかしました?」
「えっと、あの……。さっきはご迷惑をおかけしました……」
「あら、そんなこと気にしなくても良いのに。むしろ私の方こそお節介を妬いてしまってごめんなさいね」
「いえ! 全然! 嬉しかったです! それに紅茶、とっても美味しかったです。おかげで疲れが取れたんです。本当にありがとうございます」
由衣の言葉に、セリアは嬉しさを隠しきれないといったように微笑んだ。
「良かった。またいつでも飲みにいらしてね。奏様も貴方のこと、気に入っていらしたみたいだし、私も貴方みたいな方なら大歓迎だわ」
「え……? 気に入ってもらえてたんですか?」
「ふふ、そうよ。奏様が初対面であんなに笑うなんて珍しいの。仲良くなった人になら別だけど、初対面の人……特に気に入らない人には仏頂面で対応してるわ」
言葉数も極端に減るし、とセリアは付け加えた。その横顔は少し面白がっているように見えなくもない。
由衣はセリアの話を聞き、気に入ってもらえて良かった、と胸をなで下ろした。もし、気に入らない人に分類されてたら……。
あんな王子様みたいな外見の人に、嫌われてるみたいな態度とられたら、しばらく立ち直れないかも。
何が良かったのかは分からないが、今日も案外捨てたものじゃないらしい。