Alice Doll
「うん、そうだね。理由は必要だ」
由衣の心臓がドキリと跳ねた。
奏のその言い方は、まるで由衣の心の中を見透かしたような、そんな空気を含んでいたのだ。
薄く目を見開いた由衣の様子を気付かなかったのか、気にとめる気配もなく、奏は小さく口角を上げた。
「多分なんだけど、由衣さんの見た猫、ウチの猫だ。いや、正確にはウチの使用人が勝手に餌をやってる野生の猫、かな。
まあ、どちらにせよウチに住み着いてることに間違いはないね。
で、その『半飼い猫状態の野良猫』なんだけど、その使用人が今日は偶々休みでね、多分寂しかったんだろう。
偶然目についた君に遊んで欲しかったんだと思う」
だから許してあげて欲しい、その猫も、飼い主である使用人も。
奏はそう言って由衣をまっすぐに見た。その顔はどことなく哀しそうな表情。
「ひ、卑怯ですよ……」
由衣は俯いて小さく唸った。王子様みたいな人に、そんな顔をされて、それを断れる女の子なんてほとんどいないと言って間違いないだろう。