Alice Doll
奏に直接返事をするのではなく、素直に頷くだけに留める。
「ありがとう。谷田部(ヤタベ)……、ああ、その使用人の名前、谷田部っていうんだけど、彼にも私から言い聞かせておくよ。
それで、明日、谷田部が来てから事情を話して、猫と鍵を探してもらおうかと思う。でももしかしたら一日中かかるかもしれない。だから、由衣さんさえよければ明後日、もう一度来てもらえないかと思って……」
それに今日のお詫びも改めてしたいし、させたい。
誰にさせたいかなんてことは、聞かずとも谷田部のことだと分かり切っていたため、由衣は口を開けなかった。
それより困っているのは、もう一度来ることになるかもしれないことだ。
由衣にとって、これ以上彼らと関わるのはどこまでも遠慮したい話であった。
彼ら自身が嫌なわけではない。第一印象にも、見た目にも、悪い人ではないことは分かり切っている。
しかし、と由衣は心の中でため息をつく。
彼女が恐れているのはゴシップだ。彼らは軽く流していたが、彼らは自身に関する噂を知っていた。ともすれば誹謗中傷とまでとれるこれに、傷付かない者はいないだろう。
そして由衣は、自分がかかわることで、更に噂が非道くなることを恐れた。
勿論、自分にあらぬ噂がかけられるのも怖い。が、それ以上にここまでしてくれる彼らに迷惑をかけたくなかったのだ。