Alice Doll
ピ、ピ、ピ、とボタンを押す音だけが部屋に響く。奏とセリアは由衣に遠慮してか、口を閉じて静かにしてくれている。
ボタンを押し終え、受話口を耳に押し当てると、プルル、プルル、と呼び出し音が響く。数回目のコールの後、ガチャと電話を取る音が聞こえた。
「もしもし」
由衣は聞き慣れた母親の声に、ほっと胸をなで下ろした。それが表情に表れていたのだろうか、奏とセリアが柔らかく微笑む。
「えーっと、あのう……」
何て言い訳をしようかな、などと考える暇はなかった。由衣の声を聞いた途端、怒声が耳を貫いたのだ。
「由衣! アンタね!」
キーンと耳に音があふれ、由衣は数センチ、電話の子機から距離を置いた。
奏とセリアが少し目を丸くしてこちらを見ているが、この際気にしたら負けのような気がする。
電話口からは、電気代がどうの、家計がどうの、由衣の部屋がどうのという声が聞こえる。
あれ? と首を傾げる。遅くなったことに関しては何も言ってない気がする。
我が子の安否よりむしろ、今朝、部屋の電気を点けっぱなしで出たことの方にご立腹の様子。
今度母さんが連絡なしに遅くなっても、ぜぇったい、心配してやらないんだから……!
顔をしかめて子機に意識をやっていると、母はしばらくして熱が冷めたのだろう。普通に、耳に子機を当てて大丈夫なくらいの大きさの声でしゃべり始めた。
すかさず、由衣は電話に耳を当てる。