Alice Doll
「まったく。遅くなるのは良いけど、連絡くらい寄越しなさい」
「うん……」
「で? 今日は泊まりなの?」
「は!?」
意味分かんない、と由衣は続けた。なぜ泊まるとかいう話になっているのか、全く理解できない。
「え? だって由衣、眞中さんの家にも村江さんの家にも居ないんでしょ? だったらオ・ト・コしか……うふふふ」
母は最後のことばを怪しげな笑いでぼかした。彼女の電話越しでニタニタする表情が、由衣にははっきりと見えた気がする。
確かに、莉緒の家でも優芽の家でもないところにいるけど、それだけでなぜ、男の家だと判断されなくてはならないのだろう。
いや、間違ってはいないのだが、何か癪だ。
「私は、今日、帰るから」
「あらヤダ、この子ったら遠慮しちゃって」
「違うから。母さんの思っているようなこととは違うから。全く掠(かす)ってすらないから」
「なぁに? じゃあ、一体あんた、どこで何をしてるの?」
「どこって……」
由衣は言葉に詰まった。
果たしてはっきりと言っても良いものだろうか。母は人形館にあまりいい思いは持っていなかったように思う。
それはそうだろう。由衣だって今も、気味が悪いという思いは拭い切れていないのだ。
心のどこかで、気を抜いたら人形にされる材料になるかも、という思いが、ないとは言えないのが事実だ。
実際に館の彼らを見ていない分、その思いは由衣より大きく心に積もっているはずだ。