Alice Doll
と、奏が柔らかく、自然な仕草で由衣の手から子機を抜き取った。
いつの間に立ち上がっていたのだろうという驚きで、由衣は目をみはった。
そんな由衣にセリアが微笑みかけ、人差し指をたてて口元に持って行く。
「もしもし。急にお電話を取り次いで申し訳ありません」
奏が電話にでた。なにを、と言うより先に、空気の塊が口からこぼれ出る。
今、奏は由衣のすぐ斜め後ろに立っていた。ばっと振り向けば奏が電話を耳に当てている。
電話から母の声がこぼれている。奏も談笑を交えながら喋っている。
今までよくよく顔を見なかった分、由衣は奏の顔をただひたすらに見つめ続けた。
人形館の主人って怖そうなおじいさんだと思ってたけど……、まだ少し怖い思いは拭いきれないけど。やっぱり、カッコいい……。
由衣は、自分の口が半分開きっぱなしになっているのに気付けなかった。
「はい。では、はい。失礼いたします」
どうやら電話が終わったようだ。子機をセリアに手渡し、奏は由衣ににこり、と微笑みかけた。
「由衣さんのお母さん、とても気さくな良い方だね」
「そ、そうですか?」
……まあ、間違ってはないんだけど。良い人かどうかは納得しかねるところだ。
「ああ、良い人だと思う。……こっちで夕食を食べる許可もいただいたし、そろそろ食べようか」
由衣のお腹がグゥ、と鳴いた。奏はくす、と笑うと自分の席に戻った。
は、恥ずかしすぎる!
由衣は必死で再び鳴りそうになるお腹を押さえるのだった。