Alice Doll


 先ほど、送ってもらわなくて大丈夫だという方向で話が決まらなかったか、と由衣はうろたえた。
 と、同時に、ともすれば引っくり返してしまいそうだったスープを遠ざける。

「やっぱり夜だし、女性の一人歩きは良くない。セリアなら同じ女性同士だし、由衣さんも安心じゃないかと思って」

 奏の言葉に、由衣は少し後ろめたい気持ちを感じた。警戒していたのがバレていたとあって、申し訳ない気持ちになったのだ。
 確かにセリアには奏より警戒は薄れている。同じ女性というのもあるだろうが、何より雰囲気だ。
 セリアには近寄り難さがないというのだろうか、来るもの拒まずといった雰囲気が彼女からでている気がする。

 それが、由衣の警戒心を解く一番の要因になったといっても過言ではない。

 心の中での葛藤を見据えたかのように、奏が「最近は物騒だし」と付け加えた。

「じゃ、じゃあ……お願いします」

 この際なるようになれ! と心中で叫びながら、由衣は軽く頭を下げた。
 まるでこうなることを見越していたように、奏が微笑みながら、食事の続きを促す。


****


「奏さんは、あの……。噂、平気なんですか?」

 先ほどのことで、食事中の会話は大丈夫だと判断した由衣は奏に問いかける。
 奏は、ん? と首を小さく傾げ、やがて察したように頷いた。

「ああ、この屋敷についての噂だね」

「はい。……その、結構な言われようだし」

「まあ、確かに見た目、この屋敷は不気味だし、仕方ないんじゃないかと思ってるよ。それに、人の噂も何とやらって言うしね」

「で、でも!」

「心配?」
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