Alice Doll
先ほど、送ってもらわなくて大丈夫だという方向で話が決まらなかったか、と由衣はうろたえた。
と、同時に、ともすれば引っくり返してしまいそうだったスープを遠ざける。
「やっぱり夜だし、女性の一人歩きは良くない。セリアなら同じ女性同士だし、由衣さんも安心じゃないかと思って」
奏の言葉に、由衣は少し後ろめたい気持ちを感じた。警戒していたのがバレていたとあって、申し訳ない気持ちになったのだ。
確かにセリアには奏より警戒は薄れている。同じ女性というのもあるだろうが、何より雰囲気だ。
セリアには近寄り難さがないというのだろうか、来るもの拒まずといった雰囲気が彼女からでている気がする。
それが、由衣の警戒心を解く一番の要因になったといっても過言ではない。
心の中での葛藤を見据えたかのように、奏が「最近は物騒だし」と付け加えた。
「じゃ、じゃあ……お願いします」
この際なるようになれ! と心中で叫びながら、由衣は軽く頭を下げた。
まるでこうなることを見越していたように、奏が微笑みながら、食事の続きを促す。
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「奏さんは、あの……。噂、平気なんですか?」
先ほどのことで、食事中の会話は大丈夫だと判断した由衣は奏に問いかける。
奏は、ん? と首を小さく傾げ、やがて察したように頷いた。
「ああ、この屋敷についての噂だね」
「はい。……その、結構な言われようだし」
「まあ、確かに見た目、この屋敷は不気味だし、仕方ないんじゃないかと思ってるよ。それに、人の噂も何とやらって言うしね」
「で、でも!」
「心配?」