Alice Doll
今日あったことは本当に濃い体験ばかりだった。
由衣は放課後からを一つ一つ振り返りながら思う。
だからと言って、彼女はそれを友だちに話す気にはなれなかった。いや、どちらかと言えば、話したくなかった。
もちろん、この不思議な体験を誰かと共有したい、話してしまいたいという気持ちも強くある。
だが、それ以上に彼らが『みんなのもの』になりそうで怖かった。いずれ口が滑るにせよ、何にせよ、バレてしまうなら、今だけは自分の中の秘密にしていたい。
それだけではない。日常の中に突然割り込んできた、元からある『非日常』を自分が楽しみたい。
そんな気持ちもどこかにあるのを感じつつ、由衣は心地好い気だるさに身体を任せ、意識を手放していった。
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夢を見ている。夢の中の私は、青いエプロンに、白いワンピース、頭にはリボンのカチューシャを付けている。
さっきから胸が苦しいのは、走っているせいだ。夢のはずなのに、胸がこんなに苦しいなんてこともあるんだなぁ。
どうして走っているのか。それは私が追いかけているからだ。黒い、猫を。
その猫はまるで私を招くように時々立ち止まってはこちらを見やる。しかし、意地の悪いことに、絶対に私には捕まってくれないのだ。
何だったか、この夢に似た話を聞いたような気がする……。エプロンドレスを着た女の子が、穴に落ちる夢オチの話。追いかけているのは、猫……いや、違う。何だったっけ? それより、私は何で猫を追いかけているんだっけ?
『君は白兎だ。白兎は誰にも捕まってはいけない。さもなければ……』
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