Alice Doll
ピピピピピ…――。
「……ん」
由衣はアラームのけたたましい音で自分が寝ていたことに気付いた。十分ほど寝て、すぐ入浴する予定だったというのに。
もはや彼女の頭に夢のことはなかった。大方の人がそうであるように、由衣もまた、目を覚ました瞬間に夢は霧散した。夢を見た、というぼんやりした感覚はあるものの、はっきりとした自覚はない。
今日が土曜日で良かった。ベタつく身体を気怠げに起こし、由衣は浴室へ向かった。
「お母さんも起こしてくれればよかったのに。いや、高校生だし自分で起きなきゃいけないのは分かってるけど。……晩御飯、は食べたか」
自問自答を交えつつ、晩御飯、と呟いたところで前日の記憶が嫌でも蘇る。
「夢、じゃないもんなぁ」
黒猫に身体ごとタックルしたとき、擦りむいた膝を見て由衣はため息を着く。幸いにして、血も出なかったため、ほとんど無視していたが、この傷が昨日あったことをはっきり証明している。
傷付いた足をいたわるようにさすると、触れたことで小さく痛みが走り、由衣は小さく苦笑いを噛み締めるのだった。