Alice Doll


 夕方、…──その友人が言うには既に夜とも言える時間帯だったようだが…──用事を済ませるため、その友人は自転車を急がせていた。

 見たいテレビ番組を録画するのを忘れ、焦っていた彼女は近道をしようと大通りから一歩入った道の方へハンドルを曲げた。表通りに比べ薄暗い路地裏に入り、まず一番に見えてくるもの。それこそが噂の洋館である。


 時間帯が時間帯だからか、コウモリが何羽も集団で飛び回り、カラスの声も不気味に響く。
 そんな多少の気味悪さは無視して、彼女はひたすらペダルを漕ぎ続けた。


 その屋敷の正面。丁度門扉の前を通り過ぎようかというときだ。人の声が聞こえた。小さく細い声は高さから言ってもまごうことなき女性のもの。

「女の人がいるのか……」

 人の声を認識したとき、少し心臓が跳ねたものの、誰ともしれず呟き、彼女は先を急ぐ。
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