Alice Doll
それからしばらくして、父親が帰ってきたため、家族全員で楽しく夕食を迎えことにした。
そういえば、と父親が唐突に席を立ったかと思うと、鞄のポケットを漁り、由衣に封筒を差し出した。
「郵便受けに一枚だけ入っていた」
「私に? 誰だろ……」
由衣は訝しみながら、封を開けようと、それに手をかける。ぺり、と糊が剥がれる音がして、一枚のメッセージカードが姿を現した。
由衣さん、と教科書のような流暢な字で書かれた 自分の名前に、由衣はその手紙が誰からか即座に直感した。
自分の名字にさん付けされることはあっても、名前を「さん」付けで呼ぶ人間など、一人しかいない。
「奏さんだ……」
「……奏さん?」
聞いたことのない名前に父親が反応を示す。由衣は慌てて昨日の一件を父に説明する。
が、母親が「由衣の王子様よねー」などと余計な一言を言ったせいで、父の不安を拭う手間もかかった。
そういう母親の日頃の態度から、余計な一言が多い母親にはならない、と由衣は心に誓ったりするのだが、勿論それは母親の知るところではない。