Alice Doll
しかし何かがおかしい。違和感がある。
その答えを出すのに時間はかからなかった。ものの二、三秒思案に暮れた末、彼女は急いで急ブレーキをかけた。
自分が今、通り過ぎたのは噂が噂を呼ぶあの人形館。そこで声が聞こえたのだ。あの普段からこれっぽっちも人気のない館で声がした。
これはその人がその館の主人、もしくはそれに限りなく近いものとみて間違いないだろう。
しかも、それが女性ならそれは今までになかった新たな説が浮かび上がることになる。
少し不気味に思ったことも忘れ、彼女は自転車から降りると、こそりこそり忍び足で門扉まで戻った。そして覗き見るようにして庭園に見入る。
心臓がバクバクと緊張で音を立てるのだが、彼女はそれと同時に今まで感じたことがないほどに強い興奮を覚えていた。
ストーカーってこんな気持ちなのだろうか、と要らぬ思考を巡らせるが、すぐに庭園内にいるはずの『その人』の姿を捜し始める。
しかしいくら見渡せども、その広い庭に人の影どころか、気配すらも感じられなかった。
…──