Alice Doll
一瞬、何の話だと首を傾げたくなった由衣だが、すぐにお茶会のある日の話だと理解する。
只でさえ、招待してもらう立場なのに、また、夕飯までご馳走になるわけにはいかない。由衣は「それはない。夕飯は家で食べる」と呆れ顔を母親に向けた。弟は家族全体にクールだが、姉である自分もやはり、どこか似た面を持っているようだ。
「あら、残念。あ、由衣」
御馳走様でした、と両手をあわせ、席を立つとニッコリ笑顔の母。
「デジカメ、忘れないでね」
……イケメンに目がないのは、少なからず、母親に似たようだ。親を立ててくる母親を一瞥して、由衣は了解しません! とニッコリ笑顔を返すのだった。
その隅で父親がなにか複雑極まりない表情で、「彼氏は早い」とぶつぶつ呟きながら茶碗と睨めっこをしていたことなど、由衣も母親も気づくわけなかった。
ピピピピピピピ、と目覚ましが朝を知らせる前に、由衣はすでに目覚めていた。7時にかけたのだが、寝つきは良かったのに、はっと不安にかられて携帯を開けば、五時半。
それから、寝ようにも寝れず、布団の中でひたすらもぞもぞ寝返りを打っては時間を潰していた。
「何着てこう……」
メッセージカードには、十二時半に近くの公園で、と指定がしてあった。まさか、直接奏が迎えにくるのだろうか。だったら、お小遣い前借りしてでも、新しい服を買ってくるべきだった! 何してたんだ昨日の自分!