Alice Doll
「奏様じゃなくてガッカリしたかしら?」
セリアの言葉に由衣は勢い良く頭を上げた。
三秒程、由衣とセリアは見つめ合った。その三秒の間に由衣の頭の中は、目まぐるしい速度で回転しながら、今の言葉を反芻する。
その意味をようやく理解したところで、顔を真っ赤にして頭を勢い良く左右に振り、セリアの言葉を否定した。
違ったの? と言われ、よくよく考えれば、多少は残念だった気がしないでもない。
だがしかし、セリアさんでガッカリというわけでもない。むしろ嬉しい。
そう正直に伝えると、セリアは小さく笑った。笑顔に、こっちも嬉しいわ、と付け加えて。
「セリア。立ち話も楽しいかもしれないけど、そろそろ行かなくては。カナデが待ってる」
突然、セリアの後ろから声がした。少し驚いた由衣はセリアの背後をそっと見やる。
そこには少女がいた。年は由衣と同じくらいだろうか。
綺麗に切りそろえられた黒い髪だけなら、日本人と思えたが、彼女の瞳は紫を宿している。
吹奏楽のマーチングで着るような、黒と白を基調とした衣装を身につけている。頭にはミニハットがちょこんと乗っていて可愛らしい。
少女はセリアの服の裾を引っ張り、ね? と同意を促す。
一体、誰だろう? ていうか、いつから居たんだろう。気付かなかった……。
「ノエル……。そうね、でもまず、由衣さんにご挨拶は?」
セリアが優しくノエルと呼ばれた少女を窘めた。少女はあっと小さく声をあげると、気まずそうな表情で由衣を見つめた。