Alice Doll
「ノエル、良かったわね」

 セリアの言葉にノエルは大きく頷いた。「それじゃあ、そろそろ行きましょう」とセリアが先導する形で歩き始める。

 不思議と、人形館に行くことへの恐怖はゼロになっていた。



「セリアさん、今日はフォーマルな格好なんですね」

 由衣の言葉に、セリアは少し驚いたような表情を見せた。しかし、すぐに表情を崩すと、そういえば会ったときは格好が違った、とくすくす笑った。

「なんていうのかしら。そう、由衣さんは学校に行くのにちゃんと制服を着るでしょう?」

 それと同じようなものね、と言って髪を耳にかける。つまり、セリアにとっては、一昨日の格好の方がフォーマルだったようだ。

 ではノエルは? ノエルもドレスを着用するのだろうか。

 そんな疑問が顔に出ていたらしく、セリアがやんわりとそれを否定した。ノエルはこれがフォーマルなのだと。

 ドレスじゃないことが分かったものの、どちらにせよ、ノエルの服装は多少人目を引く。
 コスプレとは行かずとも、普段着にも分類されない服装であることには間違いない。

 大変そうだ、と由衣が素直に感想を零すと、そうでもないわ、とセリアが首を降った。

 むしろ、こっち(スーツスタイル)の方が慣れないから大変なのだそう。


「普段ドレスばかり着ているせいかしらね」

 慣れって怖い、と深い緑色の目を細めて笑う。そんな表情もまた綺麗で、由衣は少しだけ、彼女の表情に見惚れていた。女同士なのに、とも心の隅で思うが、セリアにはそれすら凌駕してしまう美しさがある。

 ノエルも人形のように可愛らしい少女だが、セリアには何というのだろう。大人の色気が漂っている。
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