Alice Doll
 ノエルとセリアの様子をそっと伺うと、しっかりと手を繋いでいる。まるで親子のようだが、セリアさんが親なら若すぎるし、ノエルが子どもなら高齢すぎる。

 一体どういう関係なんだろうか。

 いや、それ以前に奏さんとの関係も謎だ。こんな綺麗な人と恋人じゃない上、ノエルとも何かしら関連があるらしい。


 人形館に関しての恐怖は払拭されたものの、人形館に住む人たちへの疑問は募る一方だ。


「ほんと、何者なんだろう。奏さんって……」


 小さな呟きは誰に聞かれることもなく、空へと消えた。



*****


「よく来てくれたね」

 中庭、といってもそこは外から見えたあの庭ではなく、室内にある温室のような庭であった。数々の名も知らないような花々が、赤、黄、青、紫、白と彩を競う中、ぽっかりと真ん中にその空間は姿を現した。

 屋敷の中にあるもの程ではないが、アンティーク調の臙脂色の椅子と、真っ白なテーブルクロスを二重にかけてあるテーブル。
 そして、美しいピンクの薔薇の絵が描かれたティーカップとソーサー。黄金色のティースタンドには見るだけで幸せになれそうな小さ目のケーキやお菓子が乗っている。

 それだけで、なにかもう、異世界に来てしまったのではないかという錯覚を由衣は覚える。

 だが、それ以上に奏がその庭園で由衣を出迎えてくれたことが一番夢のような思いがした。

 セリアとノエルに連れられて真っ白な扉を潜り抜け、花のアーチに見とれながら歩いていたら、目の前がいきなり開け、ようこそ、と奏が手を差し出したのだ。
 舞い上がったのと緊張で、奏が引いてくれた椅子に座るまでの間、彼がなにかしゃべりかけてきてくれていたのだが、全くといっていいほど思い出せない。
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