Alice Doll
正面に座る奏は、先日会ったときと同じように、ボタンをひとつ開けたワイシャツを着ている。
相変わらず顔に似合わずラフな格好だ。いや、王子様のような格好をされても心臓が持たないから、この方が由衣的にはいいのかもしれないが。
「由衣さんは、コーヒーは飲めたんだっけ?」
「あ、砂糖とミルクがあれば……」
そうか、と奏は笑い、じゃあ次はコーヒーパーティーに君を招待しよう、と続けた。
はい、と特に考えもせず答えた後の「じゃあ、また来週予約しておいても良いかな?」という奏の言葉で我に返る。
慌てて奏の顔を見ると、ダメかな? と首を小さく傾げられた。サラサラの薄い金の髪の毛が、その動きに合わせて揺れる。
いや、別に来るのは良いのだが、奏側にとっては迷惑極まりないのでは?
心配をそのまま口にすれば、奏は全く心配ないと一笑して由衣の言葉を否定した。
「私は勿論、君に会いたいんだよ。特に、彼女たちがね」
ふと横を見ると、紅茶をカップに注いでくれているセリアと目が合う。いつの間に着替えたのだろう。彼女はもう、あの真っ白なドレスに身を包んでいる。
奏の言葉を肯定するように由衣に、にっこり微笑むと、ミルクと角砂糖の入った器を由衣の元へ置いた。こちらはご自由に、と付け加えて。