Alice Doll
コーヒーにお誘いしたのは、彼女たちが君に会いたがっている。
それもあるんだが、やはり君の鍵が見つからなくてね。というか、そもそも、例のその猫も見つからないんだ。
まあ、いつも気紛れにふらっと餌をねだりにきては、ふらっと去って行くから、その内ひょっこり現れるとは思うんだ。
だが、その間、君は家に入れないだろう?
大変申し訳ないんだが、平日は私も家に居ないことの方が多くてね……。
奏の言葉に由衣は胸が締め付けられそうな思いだ。なぜ、昨日今日会ったばかりの人間にここまでできるのだろう?
奏なりの心遣いなのは分かるが。
「お気持ちはすっごく有り難いんですけど、私も弟が先に帰ってることの方が多いですし、鍵のこと、そんなに心配しないでください。
それに、もともとなくしてしまったのは私自身の責任ですし……」
どこからか空気の流れに乗って、何かの花の香りが流れてくる。
その香りのお陰か、前よりも落ち着いて奏と話すことができる。